イノベーションのジレンマ 第5章-5:破壊的技術はそれを求める顧客を持つ組織に任せる

コンピュータ業界には、破壊的技術による世代交代が何度も起きた。メインフレーム(汎用機)にとっての破壊的技術は「ミニコン」であった。ミニコンにとっての破壊的技術は「デスクトップ・パソコン」であり、デスクトップ・パソコンにとっての破壊的技術は「ポータブル・パソコン」であった。このような世代交代において、ミニコン・メーカーのDECが一番の痛手を受けた。

破壊的技術に直面したDECは、破壊的イノベーションの波に乗り遅れないよう、パソコン市場に挑戦したが、4度も撤退した。その理由は次の通りである。

  • DECの経営幹部がパソコン事業に移行することを決定したが、社内で具体的な資源配分の決定をくだす人たちは、利益率が低く顧客に求められていない製品(パソコン)に資金と時間と労力を投資することには意味がないと考えた。
  • 主流組織の中からデスクトップ・パソコン市場へ参入しようとしたため、「ミニコンとパソコン」というバリュー・ネットワークに伴う2つの異なるコスト構造を両立させなければならなかった。
  • 高性能製品において競争力を保つためのコストが必要であったため、下位のパソコン市場で競争力を保てるまで間接費を削ることができなかった。

DECの失敗からわかるように、1つの企業の中で、2つのコスト構造、2つの収益モデルを平穏に共存させることは極めて難しい。単一の組織の中で、主流事業の競争力を維持したまま、同時に破壊的技術も迫求しようとするのは不可能である。適切なバリュー・ネットワークに組み込まれた別々の組織で、別々の顧客を追求しなければ、市場での地位は守れない。

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