イノベーションのジレンマ 第5章-6:破壊的技術はそれを求める顧客を持つ組織に任せる

小売業界ほど破壊的技術の影響を受けた業界は滅多にない。小売業界の破壊的技術である「ディスカウント販売」が登場したのは、1960年代のアメリカであった。

ディスカウント・ストアのサービス品質や品揃え、コスト構造は、伝統的な小売業者(デパートやバラエティ・ストア)にとって破壊的であった。ディスカウント・ストアは、在庫投資収益率においてはデパートと同じ水準だが、粗利益率が低く、在庫回転率が高い。ディスカウント・ストアは、そのコスト構造を利用して上位市場に移行し、またたく間に競合する伝統的な流通小売からシェアを奪った。

大手小売チェーンのクレスギは、ディスカウント販売事業を展開するにあたり、バラエティ・ストア事業を完全に閉鎖した。経営幹部・管理職を総入れ替えして、ディスカウント販売事業へと完全にシフトして成功した。

一方、大手小売チェーンのウールワースは、バラエティ・ストアとディスカウント・ストアの両方で店舗拡大をはかった。その結果、2つの異なる収益モデルを1つの組織の中で維持できなかった。その後2つの事業を統合したものの、ディスカウント販売事業は失敗に終わった。

小売業のケーススタディを通して「破壊的技術を追求するために、従来の事業から独立した組織をを設立することは、成功の必須条件である」とクリステンセン教授は考えた。

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