イノベーションへの解 第7章ポイント

組織の能力と破壊

  • 持続的イノベーションの状況において組織を成功へと駆り立てるスキルが、破壊的成長のための構想を失敗へと導く
  • 破壊が起こると、これまで培った組織の能力は無能力となる
  • 組織の能力は「資源」「プロセス」「価値基準」という三要素で測ることができる
  • 組織の能力と無能力を的確に評価することで、破壊的イノベーションの成功率を大いに高めることができる

資源

  • 資源の多くは有形で測定可能なため、価値を容易に評価できる
  • 資源は概して柔軟性が高いため、組織間で比較的容易に移転できる

状況に基づく理論による人選

  • 企業が「ライトスタッフ(The Right Staff:正しい資質)」に基づいてマネージャーを選ぶと、過ちが起こる
  • マネージャーが持っている、または持っていないと思われるスキルは、さまざまな経験の学校で履修した、または履修しなかった「科目」に大きく影響される
  • 新しい任務で成功するために必要なスキルを習得したマネージャーを選ぶには、候補者が過去にどのような問題に取り組んできたかを検討する必要がある

経験の学校に基づく3つのステップ

  • STEP1 何を対処することになりそうかを明らかにする
  • STEP2 経験の学校を通じて履修して欲しい科目を列挙し、担当マネージャーの雇用条件とする
  • STEP3 マネージャーが履修した科目と見比べる
    • 新事業では、確立した市場を明確な製品ラインで狙う、巨大で複雑なグローバル組織を運営する方法を学んだ経験は役に立たない
    • 新事業では、破壊的製品によって市場での最初の足がかりをつかむという挑戦に取り組んだ経験が求められる

経験の学校に基づく人選

  • まず社内の「経験の学校」を観察して、どの部分に必要な科目を設置できるかを検討すべきである
  • 有望なマネージャーに、新成長事業の舵取りを打診する前に、適切な科目を確実に履修させるよう図る必要がある
  • 必要な「教育」を受けたマネージャーが社内で見つからない場合は、新事業のチームの中に「経験の学校」で必要なことを学んだ人材をバランスよく含めるよう、図らなければならない

プロセス

  • プロセス = 組織が資源を価値の高い製品やサービスに変換して価値を生み出すときの相互作用や連携、意思伝達、意思決定などのパターンや規定
  • 長年にわたってプロセスの効果が実証されると、それらが組織文化を構成することもある
  • 企業は他社より優れたプロセスを生み出すことで競争優位に立つが、優れたプロセスは変えることが難しい
  • ある特定の業務を遂行する上では能力を示すプロセスは、それ以外の業務に適用されると、融通が利かず効率が悪くなって無能力を示すことが多い
  • 多くの資源が柔軟であるのとは対照的に、プロセスは本質的に変化しない
  • 中核事業を効率良く運営するために設計されたプロセスを、新成長事業にも用いると失敗する
  • 破壊的な成長事業を生み出すための最も深刻な無能力は、側面的プロセス(イネーブリング)や背景的なプロセス(バックグラウンド)にあることが多い

価値基準

  • 価値基準 = 従業員が仕事の優先順位を決定する際に用いる判断基準
  • 企業の価値基準は、いずれはその企業のコスト構造や収益モデルに適合するような形に変わって行かねばならない
  • 「資源」と「プロセス」が、組織に何ができるかを定義する成功因子であることが多いのに対し、「価値基準」は組織ができないこと、つまり制約を定義する
  • 全く異なるコスト構造に基づく価値基準を持つ企業は、優先順位の付け方も異なり、この価値基準の違いが、破壊する者と破壊される者との間に存在する「モチベーションの非対称性」を生み出す

組織とイノベーション

  • 組織の能力は、設立間もない頃には「資源」に影響を受けるが、やがてそれは「プロセス」や「価値基準」へと移動する
  • イノベーションを成功させる能力が「資源」から「プロセス」や「価値基準」へと移動するにつれて、成功を持続させることが容易になる
  • 新しい企業の「プロセス」や「価値基準」には、一般に創業者の行動や姿勢が色濃く反映される
  • 「プロセス」や「価値基準」が「企業文化」を形成するようになる
  • 組織の能力が「プロセス」や「価値基準」に移動し、特に「文化」に埋め込まれてしまうと、変革はとてつもなく困難になる
  • 一般的に、優良企業が新成長事業を構築するために、これまでとは異なる「資源」「プロセス」「価値基準」を用いる必要が生じるのは、中核事業が好調で、その成功を持続させるために必要な「資源」「プロセス」「価値基準」を変えられない時期である

両利きの組織(ambidexterity)

  • 主流組織の価値基準に適合しない破壊的イノベーションを推進するためには、自律的な組織を「スピンアウト」させるだけでは不十分である
  • 両利きの組織を構築するためには、一つの事業部門の中に「破壊的組織」と「持続的組織」を配置する必要がある
  • 破壊的組織と持続的組織の運営は、これらを「1つのポートフォリオの中の2つのビジネス」として扱わないような事業部門に任せる必要がある
  • 2つの組織を統合して共有する必要があるものと、それぞれの組織が自律的に実行すべきものを、十分な配慮の下で区別する能力を持ったマネージャーに指揮を執らせなければならない

「資源 – プロセス – 価値基準」の枠組み

  • 組織は「プロセス」の中に、持続的イノベーションの能力を生み出していく
  • 破壊的イノベーションは不定期に生まれるため、これに対処するための慣例的なプロセスを持っている企業は存在しない
  • 優良企業は、持続的技術でも破壊的技術でも成功できるだけの「資源」を持っているが、「プロセス」や「価値基準」が、破壊的技術を成功させる取り組みでは、優良企業も無能力にしてしまう
  • 規模の小さな破壊的企業は、資源は不足しているが、小さな市場を受け入れる価値基準があり、利益が小さくても対応できるコス卜構造を持っていることから、新興の成長市場を追求する能力に長けている
  • 新成長事業の構築では、適したプロセスを持ち、そこでの活動を優先させる価値基準を持つ組織に、新事業を任せることが求められる
  • 「資源 – プロセス – 価値基準」の枠組みを用いると、どのような変革のマネジメントについても検討することができる
  • 現在の組織が新成長事業の構築に適しておらず、新しい能力を構築する必要があるとき、「資源 – プロセス – 価値基準」のモデルと「作るか/買うかの判断」が指針として役立つ

組織構造と運営主体

図7-1 適切な組織構造と運営主体を見つけるための枠組み
図7-1. 適切な組織構造と運営主体を見つけるための枠組み
  • 左の縦軸:組織のプロセスとの適合性
    • 適合性が高い:既存の機能組織の業務と連携させるために、既存プロセスを活用可能
    • 適合性が低い:新しいプロセスや連携の方法が必要
  • 右の縦軸:開発チームの構造
    • 重量級チーム、軽量級チーム、機能的組織
  • 上の横軸:商品化担当の位置付け
    • 破壊的:新事業の開拓や商業化を推進する、自律的な組織を設立
    • 持続的:スカンク・ワークスやスピンアウトは必要なし
  • 下の横軸:組織の価値基準との適合性
    • 破壊的:主流組織の価値基準ではプロジェクトに与えられる優先順位は低い
    • 持続的:主流組織の価値基準でもプロジェクトは重視される

主流組織の「プロセス」と「価値基準」との適合性の組み合わせ

  • 領域A:画期的ではあるが持続的な技術進歩は組織の価値基準と適合するが、これまでにない問題を解決するために、重量級チームが新しい方法で相互作用や連携を行う必要が生じる
  • 領域B:価値基準とプロセスに適合しているため、既存組織同士が連携することで、新事業を容易に構築することができる
  • 領域C:破壊的な技術変化では、自律的組織の設立が不可欠である
  • 領域D:ローコスト型ビジネスモデルの新事業は、主流組織と損益の責任は分離する必要がある
  • ある企業に破壊的な影響を及ぼすものが、他の企業には持続的な影響を与えることがある

新しい能力を生み出すためのポイント

  1. 人材層を厚くする
    • 「経験の学校」の理論では、潜在能力を測る指標は「社員に備わっている能力」ではなく「将来起こり得る状況で必要となるスキルを獲得する能力」である
    • 潜在能力の高い社員を特定するための人事考課では、「ライトスタッフ」の条件に基づく評価ではなく「学習力」を重視すべきである
    • 成果をもたらすために適性を持った人材を活用しつつ、さらなる能力開発が必要な有望社員に学習の機会を与えるためには、業績拡大ばかりを追求しない自制心と次世代のマネージャーを育てる先見の明が求められる
    • 成長事業を次から次へと立ち上げれば、次世代経営者に破壊的イノベーションを指揮する方法を教え込む学校が出来上がる
  2. 新しいプロセスを作る
    • 新成長事業において新しいプロセスを生み出さなければならない場合には、「重量級チーム」が必要になる
    • 重量級チームは新しいプロセスや、協力して仕事を行うための新しい方法を生み出す手段である
    • 機能別に構成された「軽量級チーム」は、既存プロセスを活用する手段である
    • 重量級チームが成功するためには、メンバー全員が同じ場所で仕事をする必要がある
    • たとえチームの行動方針がそれぞれの所属する機能別組織にとって望ましくなくても、プロジェクトを成功させるために必要なことをしなければならない
  3. 新しい価値基準を作る
    • 企業が新しい「価値基準(優先順位の判断基準)」を生み出す唯一の方法は、新しいコスト構造を持った新しい事業部門を設置することである
    • 新たな破壊的事業は、既存事業を存続する余力を十分残している間に始めなければならない
    • 破壊的事業は、初代製品の製造・販売においても採算が取れるように、新しいプロセスを生み出して、独自のコスト構造を構築できなければならない

買収した組織の統合

  • 買収に際しては、これから買収する企業の価値の源泉は何か、また企業の価値は「資源」「プロセス」「価値基準」のどこから生み出されたのかを検討する必要がある
  • 買収理由が「プロセス」や「価値基準」の場合:買収した会社を親会社に統合してはならない(独立採算制にすべきである)
  • 買収理由が「資源」の場合:親会社へ統合し、親会社の「プロセス」に接続することで、親会社の既存能力を活用する

組織構成のポイント

  • 優良企業が破壊的イノベーションでの成功率を高めるためには、機能別に構成された軽量級チームと重量級チームをそれぞれ適切な場合に用いる必要がある
  • 持続的イノベーションでは主流組織で商品化し、破壊的イノベーションは自律的組織に任せる必要がある
  • 企業は、新しい課題に合った「プロセス」や「価値基準」を持つ組織に、有能な人材を配置するようにしなければならない

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