イノベーションへの解 第10章概要
破壊的成長の生み出すための経営幹部の責務
短期的急課題:破壊的成長事業と主流事業のインターフェースを直接監督し、企業の資源とプロセスのうち、どれを新事業に適用すべきか、すべきでないかを判断・決定する。
長期的な責任「破壊的成長エンジン」:利益ある成長事業を繰り返し巧みに立ち上げるための反復可能なプロセスを作り出す。
永久的な責任:状況の変化を察知し、変化の徴候を見分ける方法を従業員に伝授する。
経営幹部の責務
競争基盤が変化する徴候(市場のローエンドにあるか、無消費の中にあることが多い)を察知する。
変化しつつある状況に、対抗すべき脅威としてではなく成長機会として対処できるよう、適切なプロジェクトや買収を開始する。
持続的イノベーションのプロセス
優良企業では業績を達成するための推進力が、個人の能力からは次第に離れ、やがてプロセスに埋め込まれる。
破壊の足がかりを見つけた後で、持続的イノベーションに繰り返し取り組まなければならない。
持続的イノベーションを取り組むための有効なプロセスは、最も成功した企業の中に見ることができる。
破壊的イノベーションのプロセス
破壊的イノベーションという課題が、練り返し発生しないため、有効なプロセスを構築できない。
破壊的イノベーションを通じて成長事業を生み出す能力は、破壊的イノベーションの初期段階では、企業の資源にある。
破壊的成長エンジン
企業が破壊的成長を生み出すという課題に何度も取り組めば、利益ある破壊的成長事業を生み出す能力をプロセスに埋め込むことができる。
破壊的成長エンジンを生み出すことに成功する企業は、資金が向かう機会を確実に捉え、利益を伴う成長に狙い通り向かう軌道に乗ることができる。
破壊的イノベーションに向かって経営幹部に必要なもの
状況に基づく「経営幹部関与の理論」
経営幹部の直接的関与が成功の決め手となる状況
権限を委譲すべき状況を見分ける方法
情報の非対称性
中間管理職は上層部に承認させるために、手元にある情報の中から自分たちが推し進めるプロジェクトに都合のよい情報のみを報告する。
持続的イノベーションでは、経営幹部とマネージャーの間に「情報の非対称性」が存在する。
破壊的イノベーションのプロセス
破壊的潜在性を持つ事業は、規模こそ小さいものの、戦略が容易に定式化できず、利益目標も厳しいため、成否を分ける決定が頻繁に求められるが、その決定を正しく下すためのプロセスがない。
経営幹部が関与する必要があるとき
破壊的イノベーション
主流組織の「プロセス」や「価値基準」が組織内の重要な決定を処理するのに適していないと判断するとき
経営幹部の役割
破壊的事業のための計画を策定する際には、本質的に異なる「価値基準」を用いる必要がある。
破壊的イノベーションでは、実力のある経営幹部が自ら直接関与しなければならない。
持続的イノベーションでは、権限委譲が有効である。
経営幹部は、破壊的イノベーションにとって適切な「プロセス」が存在する場合はその利用を推奨し、そうでない場合は不適切な「プロセス」や「価値基準」の影響力を遮断すべきである。
破壊とマネージャー
破壊は、会社全体の将来を左右する改良が生み出されている場所に起こることが多い。
主流部門のマネージャーには、新たな破壊的事業で生み出されている技術やビジネスモデルのイノベーションについての十分な情報を与える必要がある。
破壊と経営者
破壊的成長を監督する責任は、CEOまたは同等の権限を持つ者が負う。
創業者に導かれた組織が、基本的には単一事業型の企業で、破壊的イノベーションに直面した当時はそれほど多角化が進んでいない。
価値ある成長エンジン
企業が成長事業を連続して立ち上げる
リトマス試験を繰り返し用いてアイデアを形成する
生成期の破壊的事業を買収する
確かな理論を繰り返し用いて事業構築の重要な決定を下す
上記を実行する能力を「プロセス」に組み込む
利益ある成長事業を特定し、形成し、立ち上げるための、予測可能かつ反復可能なプロセスを生み出す
破壊的成長エンジン
(1) 必要になる前に始める
投資するのに最適な時期は、企業がまだ成長している間である
(2) 経営幹部による監督
経営幹部が資源配分プロセスを監督する
(3) 専門家チーム “始動者と形成者”
アイデアを破壊のリトマス試験に適合するように形成する責任を負う
(4) 部隊の訓練
市場のニーズに最も近いところにいるエンジニアと営業部隊が、何を探すべきかを理解していなければならない
ステップ1:必要になる前に始める
成長エンジンは周期的に、そして財務動向ではなく所定の方針に従って、作動させなければならない。
そうすれば、企業がまだ堅調に成長している間に新事業を確実に立ち上げられる上、新事業が急成長するよう圧力をかけられることがない。
ステップ2:アイデアを適切な形成プロセスおよび資源配分プロセスへ導く経営幹部を任命する
「経営幹部による監督」という取り組みが重要なのは、成功がまだ「プロセス」よりも主として「資源」の働きによってもたらされる初期段階である。
新事業を会社の既存プロセスから免除してやり、新しいプロセスの開発が必要だと宣言する。
経営幹部は、破壊的潜在性を持つアイデアと持続的向上のアイデアを区別しなければならない。
破壊の足がかりを築くのに適したアイデアを、その成功率を最も高めるようなプロセスに注ぎ込むという責務を持っている。
初期段階の責務は、個々の成長事業の個々の決定を監督、指導することである。
やがてアイデアを収集・形成し、資金を配分するためのプロセスを監視し、指導と訓練を続け、環境における風向きの変化に目を配ることが任務となる。
ステップ3:アイデアを形成するためのチームやプロセスを作る
アイデアを成功率の高い破壊的イノベーションに形成するためには、独立的に運営されるプロセスを作る必要がある。
全社レベルのコア・チーム(小規模なグループ “始動者と形成者”)を設置する。
コアチームの役割
破壊的イノベーションのアイデアを収集させ、それを「リトマス試験」に適合するような破壊的事業計画にまとめる責任を持たせる。
「確実に資金が配分されて実行に移されるような、反復可能で信頼できる確実なシステム」を開発させる。
破壊として形成できるアイデアと形成できないアイデアを判別することができる。
破壊的イノベーションあるいは持続的イノベーションとして形成する見込みがあるアイデアを識別できる。
どのアイデアが既存事業の形成プロセスや資源配分プロセスに注ぎ込まれるべきかを識別できる。
ステップ4:部隊を訓練して破壊的アイデアを発見させる
破壊的成長エンジンをつくるためには、従業員、特に営業、マーケッター、エンジニアを訓練する必要がある。
持続的イノベーション、破壊的イノベーション、リトマス試験について十分理解させる。
どのアイデアを持続的プロセスへと導き、どのアイデアを破壊的プロセスに差し向けるべきかを、理解させる。
経営幹部がイノベーションのマネジメントにおいて果たすべき役割
(1) 適切な連携プロセスが存在しない場合には、さまざまな行動や決定を、自ら進んで連携させなければならない。
(2) 部下が新しいコミュニケーション、連携、意思決定のパターンを必要とする、新しい課題に直面したときには、既存プロセスの支配力を崩さなければならない。
優良企業が破壊的成長事業の創造を初めて企てるとき、経営幹部は(1)と(2)の役割を果たす必要がある。
(3) 同じような行動や決定が組織内で繰り返し行われるとき、経営幹部はこれに関わる従業員の活動を連携させるためのプロセスを作らなければならない。
企業の成長を長期にわたって持続させる成長エンジンをつくるためには、経営幹部は(3)の役割を果たさなければならない。
新しい破壊的事業の立ち上げを、周期的で反復的な課題にする必要がある。
(4) 新たな破壊的成長事業を続けざまに立ち上げていくためには、同時進行する複数のプロセスやビジネスモデルを構築し維持する。
新成長事業での有益な学習を主流部門に環流させる。
破壊的事業と持続的事業との橋渡しを行い、「資源 – プロセス – 価値基準」が主流事業から新事業へ、そして再び主流事業へと流れるよう、積極的に監督する。