イノベーションの最終解 第1章 概要

イノベーションの理論を用いて業界の変化を分析する方法

1. 変化のシグナル
図1-1. 変化のシグナル
何者かが変化の機会を有利に利用しようとしている兆候(変化のシグナル)を探す。

変化のシグナルを見つけるための顧客
無消費者:製品を消費していない顧客や、製品を不便な環境で消費している顧客
満たされない顧客:製品を消費しているが、ニーズが満たされていない顧客
過剰満足の顧客:製品を消費しているが、ニーズが必要以上に満たされている顧客

企業の選択
無消費者の獲得を狙った新市場型破壊的イノベーション
満たされない顧客を狙った上位市場に向かう持続的イノベーション
過剰満足の顧客を狙ったローエンド型破壊的イノベーションか、モジュールへの置き換え

持続的イノベーション
持続的イノベーションは大抵、満たされない顧客の中でも「先進顧客」に導入され、その後、より厚みのある顧客層へと徐々に導入される。
先進顧客は市場のハイエンドにいる、最も要求の厳しい顧客である。

破壊的イノベーション
破壊的イノベーションでは、先進顧客は新しい市場か、既存市場のローエンドに存在する。
破壊的イノベーションが将来市場の主流顧客にどのような影響を与えるかを予測するには、ローエンドと新しい市場、そして新しい状況に目を向けなければならない。

潜在的な顧客

①顧客 ②識別方法 ③予想される展開 ④シグナル
無消費者 自分にとって重要な用事を便利かつ簡単に片づけるための能力、財力、アクセスをもたない人たち。一般に、用事を片づけてくれる誰かを雇うか、自力で十分とは言えない解決法を編み出すことが多い 新市場型破壊的イノベーション
  • すでに片づけようとしている用事をより便利に片づけるのに役立つ製品/サービス
  • 新規市場または新しい利用環境の爆発的成長
満たされない顧客 製品を消費しているが、その性能限界に不満を感じている顧客。自分にとって最も重要な面の性能を高めた製品に割高価格を支払う意思を示す 上位市場に向かう持続的イノベーション(急進的、漸進的)
  • 既存顧客向けに導入される新しい改良製品・サービス
  • 統合型企業の成功と専門的企業の不振
過剰満足の顧客 それまで魅力的な割増し価格をもたらしてきた性能向上に対価を支払わなくなる顧客 ローエンド型破壊的イノベーション
  • 最も要求のゆるい顧客を対象とする新しいビジネスモデルの出現
置き換えのイノベーション(モジュールへの置き換え)
  • 主流顧客をターゲットとする専門的企業の出現
下位層プレーヤーが必要なスキルを持つようになる
  • ルールや標準(「何が何を引き起こすか」に関する広く受け入れられた名言)の出現
  • 製品・サービスの提供者が最終消費者に接近する

 
無消費者
破壊的イノベーションで最初に探すべき顧客は、無消費者(消費していない人たち)である。
無消費者が存在するのは、既存製品の特徴により、非常に裕福な人や特別なスキルや訓練を積んだ人でなければ消費ができないような場合である。
製品を消費している人でさえ、特定の状況や環境では製品を消費できていない無消費であるかもしれない。

成功する新市場型破壊的イノベーション
財力やスキルを持たないために、それまで重要な用事を片づけられなかった顧客に、相対的に単純で手頃な製品・サービスを提供して、顧客のアクセスと能力を高め、用事を簡単に片づけられるようにする。
顧客が行動や優先順位を変えたりしなくても、前から片づけようとしていた用事を、より簡単かつ上手に片づけられるようにする。

新市場型破壊イノベーション
業界を長期的に変化させる可能性が最も高い。
かつて専門家がいなければできなかったことを、自分でできるようにして、サプライチェーンからひとつの段階を取り除いてしまうことが多い。
また片づけられていない用事を見極める適切な市場調査も、無消費の有無を見極めるのに役に立つ。
価格が相対的に安い場合が多いが、絶対的に安いとは限らない。

新市場型の破壊的成長を示すシグナル
新興市場が「高い成長率」を示していて、しかもその「成長率が上昇している」こと
ターゲット顧客が進んで新しいイノベーションを取り入れようとしていること

統合型企業、専門的企業
急進的な持続的イノベーションを推進する企業にとって、統合化は不可欠である。
統合型企業は、互換性や相互運用性、レガシーの問題に対処する際に生じる、さまざまな相互依存性をマスターできる。
専門的企業は、バリューチェーン内の十分な数の要素をコントロールしていないため、急進的イノベーションをうまく事業化することができない。

破壊の足掛かりの後
満たされない顧客を獲得するための持続的イノベーションは、企業が最初の足がかりを築いた後に潜在的な成長力を実現するための手段である。

業界の競争基盤
無消費者の発見の次は、顧客を評価しなければならない。
業界の競争基盤:特定の階層の顧客が最も重視しているが十分ではない部分
製品が発売されて間もない頃は、顧客は製品が「何をするのに役立つか(機能性)」と「いかに着実に用事を片づけられるか(信頼性)」によって、性能を評価する傾向がある。
満たされない顧客が存在することによって、既存企業が上位市場に向かう持続的イノベーションを推進して利益を上げる機会が生まれる。

既存顧客の種類
既存製品がニーズに十分応えていない「満たされない顧客」
既存製品が必要にして十分以上にニーズに応えている「過剰満足の顧客」

満たされない顧客の存在を示す兆候
性能の高い新製品に一貫して割高な価格を支払おうとする顧客の存在
システム全体のソリューションを提供する統合型企業の成功
複雑な相互依存的な問題を解決できる能力をもたない専門的企業の不振

持続的イノベーションの種類
上位市場に向かう持続的イノベーションは複雑さの程度によって区別され、「急進的な持続的イノベーション」と「漸進的な持続的イノベーション」を両極とした軸のどこかに位置づけられる。
急進的な持続的イノベーションは複雑で相互依存的でコストが高い。
漸進的な持続的イノベーションは、業界にそれほど劇的な影響を及ぼさないことが多い。

競争基盤の変化
企業は上位市場に向かう持続的イノベーションを推進し、製品・サービスの性能向上に取り組むうちに「過剰な性能」を提供して、いつか必ずコモディティ化を促す。
過剰満足が生じると業界の競争基盤が変化するため、成長機会を生み出すことのできるイノベーションの種類が変化する。
機能性と信頼性が必要以上に高くなれば、企業が競争する「性能」の側面は「使いやすさ(利便性、カスタマイズ性、価格)」へ移行する。
顧客が価格だけを重視するようになるのは、他のすべてのニーズが満たされた後となる。

競争基盤の変化→業界の変化
過剰満足の顧客層に、ローエンド型破壊的イノベーションが根づく
専門的企業が業界に参入し、統合型企業を駆逐する
標準やルールが整備され、多様な企業が各顧客層の最低限の要求に十分応えられる製品・サービスをつくれるようになる

過剰満足の市場
イノベーションによって新しい成長市場を生み出すことはできない。
ローエンド型破壊的イノベーションを用いて、既存企業の最も要求のゆるい顧客層に足がかりをつくることで、新たな成長企業を生み出すことができる。

ローエンド型破壊的イノベーションを示すシグナル
既存企業とは異なる方法で利益を生み出すビジネスモデルが出現する。

置き換え
専門的企業は「置き換えのイノベーション」を推進して、既存企業からシェアを奪うこともある。
置き換えはモジュール化した箇所で生じる。
ローエンド型破壊的イノベーションが、最も要求のゆるい顧客をターゲットとするのに対し、置き換えはまず主流市場をターゲットにする。
置き換えのイノベーションは、必ずしも低コストのビジネスモデルや性能の劣った製品を伴うとは限らない。
製品・サービスの特定の構成要素を供給する専門的企業が、置き換えを推進することが多い。
分業をもたらすため、ローエンド型破壊的イノベーションを促すことがある。

置き換えの見極め
顧客のニーズに対して過剰満足の状態にある機能性を探す。

インターフェースがモジュール型かの識別方法
インターフェースのどの部分が、重要か、重要でないかを特定できること。
インターフェースを構成するパラメータや通信手順が、適切かつ必要なものであることを、測定または検証できること。
インターフェース全体の相互作用が、よく理解され予測可能であること。

過剰満足の状態というシグナル
顧客が過剰満足の状態になるとルールが整備されて、最終消費者(エンドユーザー)の近くにいる、スキルの劣るメーカーが必要にして十分な製品を作れるようになる。
ルールが整備されることで、新規参入企業は、製品を新しい環境に導入したり、必要にして十分な製品を劇的に低いコストで提供するビジネスモデルを構築できるようになる。
その結果、新市場型破壊的イノベーションとローエンド型破壊的イノベーションの両方に扉が開かれる。
標準や規格が業界に広く浸透していることや、企業が採用活動で深い理論的知識を重視しなくなることは、この変化が生じたことを示すシグナルである。

ンターフェイスの定義→破壊的イノベーション
インターフェースが定義されると、非統合型企業でもサブシステムを製造できるようになり、技術レベルがそれほど高くない企業でも、モジュール型製品の組み立てができるようになる。
既存企業からすると、新市場型破壊的イノベーションによる成長のように見える(かつて市場から閉め出されていた企業が参入できるようになるため)。
消費者からすると、ローエンド型破壊的イノベーションによる成長のようにも見える(安価な製品が手に入るようになるため) 。

ローエンド型と新市場型
ローエンド型と新市場型の破壊的イノベーションは、ひとつの連続体の両極をなしている。
消費者への接近を可能にするルールが誕生すると、この連続体の真ん中に位置する、ローエンド型と新市場型両方の要素を併せ持つ企業が出現する。

標準化
標準化は、必要にして十分な製品・サービスの迅速な開発を可能にするが、速度と柔軟性を優先させた結果、最先端の技術から後退してしまう。

バリューチェーン進化の理論
組織はバリューチェーン内の「十分でない」側面を向上させる際に影響のあるインターフェースを、全体にわたって統合化する必要がある。
解決すべき難問が変われば、統合化が必要な場所もそれに合わせて移動する。

統合保存の原則(魅力的な利益保存の法則)
性能を最適化するために相互依存的なシステムアーキテクチャが必要になったときの条件
利益を上げる能力は、モジュール型の製品・サービスを組み立てる企業から離れ、重要なサブシステムをつくる企業へ、そして速度と利便性を左右する性能向上のカギとなる箇所で統合化している企業へとシフトする。
十分でない性能を最大化するためには、バリューチェーン内の隣接する段階の製品・サービスのアーキテクチャが、モジュール型かつ変換可能でなければならない。
統合型のものを最適化するためには、それを取り囲むものがモジュール型でなければならない。

統合化
統合型企業は、業界のバリューチェーン全体にわたって統合化されている。
専門的企業は、十分でないひとつの構成要素を製造するために統合化されていたり、カスタマイズ化や利便性を左右するインターフェースにわたって統合化されている。

新たなビジネスモデルが誕生するチャンス
無消費者
満たされない顧客
過剰満足の顧客
市場外の要因
政府とその監督機関

動機づけと能力
動機づけ:イノベーションを促す市場インセンティブ
能力:資源を獲得し、その資源を製品・サービスに変換し、顧客に提供する能力
企業がイノベーションを行う動機づけと能力を併せ持っていれば、多くのイノベーションが開花する。

動機づけ/能力の枠組みを用いるためのステップ
(1) 企業の現在の動機づけと能力を書き出して、現在の環境がそれぞれの種類のイノベーションにとって望ましいかどうかを考え、望ましいものでなければ、イノベーションを阻害している主な障壁を見極める。
(2) 市場外のプレーヤーが、企業の動機づけや能力に影響を与えるような措置を講じているかどうかを判断する。
(3) そのような措置が、イノベーションへの主な障壁を取り除くためのものかどうかを判断する。もしそうであれば、その措置はイノベーションを促進すると期待できる。

業界の変化の分析方法
変化のシグナル(何者かが変化の機会を有利に利用しようとしている兆候)を探す。

企業の行動
新市場型破壊的イノベーションを創出して、新しい消費者の獲得を目指す
上位市場に向かう持続的イノベーションを推進して、満たされない顧客を狙う
ローエンド型破壊的イノベーションやモジュールへの置き換えによって、過剰満足の顧客を狙う

変化のシグナル
ルールの誕生が業界の変化を促進する。
市場外のプレーヤーが「動機づけ」や「能力」を高める目的で講じる措置が、業界構造を根底から変える可能性がある。

変化のシグナルを確認するための質問
業界の顧客は、どのような用事を片づけようとしているのか?
顧客は現在の製品・サービスを十分消費していないのか、満たされていないのか、それとも過剰満足なのか?
企業は顧客を獲得するために、どの側面で競争しているのだろう?
過去にどのような性能向上に割高な価格がついたか?
現時点での主流は、統合型と分業型のビジネスモデルのどちらか?インターフェースは特定可能で、検証可能、予測可能だろうか?
目新しいビジネスモデルは、どこに現れているのか?周辺市場に成長が見られないだろうか?
政府やその監督機関は、イノベーションを促進または阻害するうえで、どのような役割を果たしているのか?

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