イノベーションのジレンマ 第1章-4:なぜ優良企業が失敗するのか

クリステンセン教授は、ディスク・ドライブ業界において新しい持続的技術が現れた時期に、優良企業と新規参入企業のどちらが技術的に進んでいたかを分析し、次の傾向を見出した。

  • ディスク・ドライブ業界に持続的イノベーションが起きるときには、必ず優良企業が率先して開発と商品化を行っていた。
  • 優良企業は、リスクもコストも高い複雑な部品技術の開発ばかりでなく、これまでディスク・ドライブ業界に起きたすべての持続的イノベーションをリードしていた。
  • 技術革新が「抜本的か漸進的か」「コストが高いか低いか」「ソフトウェアかハードウェアか」「部品かアーキテクチャーか」「技術蓄積向上型か技術蓄積破壊型か」に関わらず、優良企業が持続的イノベーションをリードしていた。

ディスク・ドライブ業界では、今まで以上に既存顧客の要望に沿う持続的な技術革新が見つかれば、優良企業が率先して新しい技術を開発し、採用してきたことが明らかになった。

ディスク・ドライブ業界の技術革新は、そのほとんどが持続的イノベーション(持続的技術からもたらされるイノベーション)によるものであった。「破壊的技術」と呼ばれる技術革新は、ごくわずかしか存在しなかった。そしてこの「破壊的イノベーション(破壊的技術からもたされるイノベーション)こそが業界のリーダー企業を失敗に追い込んだ要因である」とクリステンセン教授は仮説した。

ディスク・ドライブ業界の破壊的イノベーションを分析するために、ドライブが小型化する要因となった「アーキテクチャーのイノベーション」に注目したところ、次のような破壊的イノベーションの特性が導き出された。

  • 破壊的イノベーションは技術的には単純で、既製の部品を使い、アーキテクチャーも従来のものより単純な場合がある。
  • 確立された市場では、破壊的技術は顧客の要望に応えるものではないため、初期段階ではほとんど採用されない。
  • 破壊的技術は、主流からかけ離れた、とるに足りない新しい市場でしか評価されない。
  • 破壊的技術によって新しい用途の市場が生まれるとしても、その技術を導入したからといって既存製品の売上が侵食されるとは限らない。
  • 優良企業が、破壊的技術による新しい用途が商業的に成熟するまで待った上で、自分たちの市場への攻勢をかわすためだけにその技術を導入すると、既存製品の売上が浸食されてしまう。

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