イノベーションのジレンマ 第9章ポイント
性能の供給過剰と競争基盤の変化
図9-1. 競争基盤の変化
- 性能の供給過剰が発生すると、破壊的技術が出現し、確立された市場を下から侵食する可能性が出てくる
- 顧客がある製品・サービスの比較・選択において順位を決める基準が変えるとき、製品のライフサイクルが、ある段階から次の段階へ移行する兆しが現れる
- 供給される性能と求められる性能の軌跡が交差すると、製品のライフサイクルの段階が根本的に移り変わるきっかけになる
- ある性能に対する需要が飽和状態になると、まだ市場の需要を満たしていない他の性能指標が重視される
- 性能の供給過剰は競争基盤を変化させ、顧客が複数の製品を比較して選択する際の基準が、まだ市場の需要が満たされていない特性へと移る
- 競争基盤が繰り返し変化し、完全に差別化の要素がなくなる(複数の製品がすべての性能指標に対する市場の需要を満たす)と、製品は市況商品(需給関係に応じて価格が変化する商品)になる
- 製品の特徴と機能が市場の需要を超えてしまうと、特徴や機能の違いは意味を失う
性能の供給過剰
- 製品のサイクルを次の段階への移行を促す重要な要因
- 購買階層のある段階から別の段階への移行を促す要因
マーケティング・モデル
- ウィンダミア・アソシエーツの「購買階層」;(1)機能、(2)信頼性、(3)利便性、(4)価格 の4段階で構成される製品サイクル
- ジェフリー・ムーアの「クロッシング・ザ・カズム(キャズム理論)」:(1)イノベーター、(2)アーリーアダプター、(3)アーリーマジョリティー、(4)レイトマジョリティー、(5)ラガード の5つの客層で構成されるテクノロジー導入ライフサイクル
- 『機能』『信頼性』『利便性』『価格』という競争基盤の進化のパターンは、多くの市場に見られる
破壊的技術の競争基盤への影響
- 破壊的技術の登場は競争基盤の変化の兆しである
- 「性能の供給」が「市場の需要」を超えると、それが差別化した製品であっても市場は価格プレミアムを支払わない
- 市場の需要を超えた性能を持つ製品は、市況商品のように価格が決定されるようになり、競争の基盤を変える破壊的製品がプレミアムを獲得することができる
製品のライフサイクルと競争力学に対して影響を与える破壊的技術の性質
- 破壊的技術の弱みは強みでもある
- 「性能の供給過剰」「製品のライフサイクル」「破壊的技術の出現」が相互に影響し合う中では、主流市場で破壊的技術を役に立たたないものとしている特性が、新しい市場で価値を生むことが多い
- 破壊的イノベーションで成功する企業
- 最初にその技術の性質や機能を当然のものと捉え、それらの特性を評価し受け入れる新しい市場を見つけるか、開拓しようとする
- 開発における最大の課題は「マーケティング」であり、製品の破壊的な特性が有利になる次元で競争が発生する市場を開拓するか、見つけることだと考える
- 破壊的技術に追い落とされた企業
- 確立された市場のニーズを当然のものと受けとめ、その技術が主流市場でも十分評価されると思えるまで破壊的技術を販売しない
- 開発における最大の課題は「技術」であり、既存の市場に合うように破壊的技術を改良することだと考えがちである
- 破壊的技術は確立された技術より単純、低価格、高信頼性、便利
- 性能の供給過剰が起こり、破壊的技術が主流市場を下から攻撃するようになると、破壊的技術は「機能」に対する市場の需要を満たす
- 主流製品より単純、低価格で、信頼性が高く、便利であるがゆえに、成功する場合が多い
- 優良企業は高性能、高収益の製品と市場を追い求める傾向があるため、最初の破壊的製品に余計な機能を付けないことに抵抗感がある
性能の供給過剰モデル
図9-2. 競争基盤の変化のマネジメント
- 市場が求める性能向上の軌跡の方が、技術者が供給する性能向上より傾斜がゆるやかな、複数の層になった市場を図式化している
- 市場の各層が『性能 → 信頼性 → 利便性 → 価格』という、製品の選択基準の移行が起きるサイクルの中を進んでいる。この中で、競争基盤の変化や製品ライフサイクルの進化の兆しとなる製品が破壊的技術である
業界の競争の性質を変える可能性を持つ破壊的アプローチ
- 性能の供給過剰に直面した企業が採り得る3つの戦略
- 戦略1 ハイエンドの顧客に向けて上位市場へ進む
持続的技術の軌跡に沿ってさらに上層の市場へと移動し、単純、便利、または低コストの破壊的アプローチが出現したら、低い層の顧客をあきらめる - 戦略2 顧客に合わせる
いずれかの層の市場で顧客のニーズに合わせてゆっくりと進化し、幾度かの競争基盤の変化の波にうまく乗る。 - 戦略3 機能に対する市場の需要を変化させる
市場の軌跡の傾斜を急にするマーケティング計画を採用し、技術が供給する性能の向上を、顧客が求めるようにしむける
- 戦略1 ハイエンドの顧客に向けて上位市場へ進む
- 3つの戦略のいずれも、意識的に追求すれば成功する可能性がある
- 成功した企業は、明確に意識しているにせよ、直感にせよ「顧客の需要の軌跡」と「自社の技術者の供給の軌跡」の両方を理解している点で共通している
- 優良企業のほとんどは、無意識のうちにハイエンド市場へと移動し、競争基盤の変化に足をとられ、破壊的技術による下からの突き上げを食らっている