イノベーションへの解 第2章ポイント
イノベーションの傾向
- 企業が魅力ある顧客に高く売れる、より良い製品をつくることで競い合うという「持続的イノベーション」では、ほぼ必ず既存企業が勝つ
- 新規顧客や魅力のない顧客群に安く売れる、シンプルで便利な製品を商品化することが課題となる「破壊的イノベーション」では、新規参入者が既存企業を負かす確率が高い
- 成功した企業を頻繁に失敗させる状況は「破壊的イノベーション」のときである
イノベーションの特徴
- 持続的イノベーション
- 持続的イノベーションは、従来製品よりも優れた性能で、要求の厳しいハイエンドの顧客獲得を狙うものである
- 持続的イノベーションによる競争は、最高の顧客により高い利益率で売れるより良い製品をつくる競争であるため、優良企業には参戦する強力な動機と十分な資源が備わっている
- 破壊的イノベーション
- 破壊的イノベーションは、現在手に入る製品ほどには優れていない製品やサービスを売り出すことで、その軌跡を破壊し、定義し直すものである
- 一般的に、新しい顧客やそれほど要求が厳しくない顧客にアピールし、シンプルで使い勝手がよく安上がりな製品を提供する
- 破壊的製品がいったん新しい市場やローエンド市場に足がかりを得ると、改良のサイクルが始まる
- 技術進歩のペースが顧客の利用能力を上回ると、以前は不十分だった技術がやがて十分に向上し、要求水準が高い顧客のニーズを満たすようになり、その破壊的イノベーションはやがて既存企業を追い詰める軌道に乗る
イノベーションのジレンマ
- 業界の現リーダーが持続的イノベーションの競争でほぼ勝利を収める一方で、破壊的イノベーションでの勝算は新規参入企業が圧倒的に高い
- 優良企業には持続的イノベーションを支えるための精緻化された資源配分プロセスがあり、構造上破壊的イノベーションに対応できない
- 優良企業は、上位市場に向かう動機はあるものの、破壊的イノベーターにとって魅力的な「新市場」や「ローエンド市場」を防御する意欲がほとんどない(非対称的モチべーション)
- 優良企業は、下位市場から進出してきた企業に攻撃されたとしても、彼らと戦うよりも上位市場へ逃げることを選択する
- 破壊的イノベーションが成功するのは、戦わずに上位市場へ逃げようとする競争相手を打ち負かしやすいからである
破壊的イノベーションの注意点
- ある事業にとって「破壊的イノベーション」となるアイデアが、別の事業にとっては「持続的イノベーション」となる場合がある
- 企業にとっては破壊的イノベーションであるように思えるが、一部にとっては持続的イノベーションであるようなら、白紙に戻してやり直すべきである
- 標的とする市場空間のすべての既存企業に対して、破壊的イノベーションとなる機会を定義しなければならない
- ローエンド市場において低い価格ながら利益を生み出せる「破壊的ビジネスモデル」をそのまま上位市場に持ち込み、性能の高い製品を製造して高い価格で販売できれば、更なる利益を上げることができる
- 優良企業が破壊的イノベーションを通じて成長するためには、後に上位市場に移行しても利益を得られるようなコスト構造を持った、自律的な事業部門の中でそれに取り組む必要がある
破壊的イノベーション・モデル
図2-3. 破壊的イノベーション・モデル(3次元モデル)
- バリュー・ネットワークの中では、各企業の競争戦略やコスト構造、対象とする市場や顧客の選択によって、企業がイノベーションの経済的価値をどう認識するかが決まる
- 新しいバリュー・ネットワークは、従来品よりシンプルで携帯性に優れ、製品コストが低い新製品が現れたときに生まれる
破壊的イノベーションのタイプ
- 新市場型破壊
- 新しいバリュー・ネットワークを生み出す破壊
- 新市場型破壊の製品は従来品に比べれば手頃な価格で入手できて使いやすいため、新しい顧客が手軽に購入して利用するようになる
- 当初は独自のバリュー・ネットワークの中で「無消費(消費のない状況)」と対抗するが、性能が向上するにつれ、主流のバリュー・ネットワークの顧客を、最も要求の甘い階層から始めて、次々と新しいバリュー・ネットワークの中に引きずり込むようになる
- 新市場型破壊では戦う相手が「無消費」であることから、優良企業は破壊が最終段階に至るまで攻撃者(新規参入企業)を無視する(→ イノベーションのジレンマ)
- ローエンド型破壊
- 主流のバリュー・ネットワークのローエンドにいる、最も収益性が低く、ニーズを過度に満たされた顧客を攻略する破壊
- 高い収益性を求められる優良企業がローエンド型破壊に直面すると、攻撃を避けて逃走する(→ イノベーションのジレンマ)
- ローエンド型破壊と新市場型破壊のハイブリッド
- 破壊的イノベーション・モデルの第3軸はローエンド型破壊と新市場型破壊を両極とする連続体である
- 破壊的イノベーションは「ローエンド型」と「新市場型」のハイブリッド(混成)であることが多い
破壊的戦略の可能性を判断する3つのリトマス試験
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- これまで金や道具やスキルがないという理由で、これをまったく行わずにいたか、料金を支払って高い技能を持つ専門家にやってもらわなければならなかった人が大勢いるか?
- 顧客はこの製品やサービスを利用するために、不便な場所にある施設に行かなければならないか?
→ どちらもYESならば「新市場型破壊」の戦略として成り立つ
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- 市場のローエンドには、性能面で劣る(が十分良い)製品でも価格が低ければ喜んで購入 する顧客がいるか?
- そうしたローエンドの顧客を勝ち取るために必要な「低価格でも魅力的な利益を得られるようなビジネスモデル」を構築することができるか?
→ どちらもYESならば「ローエンド型破壊」の戦略として成り立つ
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- このイノベーションは、業界の大手企業すべてにとって破壊的だろうか?
→ もし一社もしくは複数の大手プレーヤーにとって持続的イノベ ーションである可能性があれば、優良企業の勝算が高く、新規参入者の勝つ見込みはほとんどない
3つのイノベーション戦略
| 特徴 | (1)持続的イノベーション | (2)ローエンド型破壊 | (3)新市場型破壊 |
|---|---|---|---|
| 製品やサービスの目標性能 | 最も要求の厳しい顧客が最も重視する属性における性能向における従来の性能向上。これには、漸進的または画期的な向上が含まれる | 主流市場のローエンドにおける従来の性能指標に照らして十分良い性能 | 「従来型」の属性では性能が劣るが新しい属性(特に単純で便利なこと)での性能向上 |
| 目標顧客または用途市場 | 性能向上に対価を支払う意志のある、主流市場の最も魅力的な(つまり最も収益性の高い)顧客 | 主流市場のローエンドにいる、過保護にされた顧客 | 無消費をターゲットとする。つまり製品を購入、使用するために必要な、金やスキルを持っていなかった顧客 |
| どのようなビジネスモデル(プロセスやコスト構造)が必要になるか | 既存のプロセスやコスト構造を活用し、現在の競争優位を十分に活かして、利益率を改善または維持する | 運営面または財務面(または両方)における新しいアプローチ。低い粗利益率と高い資産活用率をさまざまに組み合わせることによって、市場のローエンドでビジネスを得るために必要な低価格でも魅力的な利益率を得る | 販売単位当たり価格が低く、当初は単位生産量が少なくても、儲けが出るようなビジネスモデル。販売単位当たりの粗利益益額はかなり低くなる |