イノベーションへの解 第8章ポイント

意図的戦略策定プロセスと創発的戦略策定プロセス

図8-1 戦略が定義され実行されるプロセス
図8-1. 戦略が定義され実行されるプロセス
  • 正しい戦略を見出すことに力を入れるよりも、戦略策定に用いられるプロセスを上手にマネジメントした方が成果が出やすい
  • 意図的戦略:市場成長率、市場分野の規模、顧客のニーズ、競合企業の強みと弱み、技術曲線などに関するデータ分析をもとにした戦略
  • 将来を予見することが難しく、何が正しい戦略かはっきりしないような状況では、創発的プロセス主導で戦略を策定することが望ましい
  • 意図的戦略:意識的で分析的なもので、市場成長率、市場分野の規模、顧客のニーズ、競合企業の強みと弱み、技術曲線などに関するデータ分析をもとにした戦略
  • 必勝戦略が明らかになれば、今度は意図的戦略策定プロセス主導で、戦略を策定しなければならない

資源配分プロセス

  • どの戦略に資金を与えて実行に移し、どの戦略に資源を与えないかを決定するプロセス
  • 資源配分プロセスで優先順位の決定を導く価値基準が、企業の意図的戦略と連動していなければ、企業の意図的戦略と現実の戦略とが大きく食い違うことがある
  • 中間管理職がどのアイデアを推進し、どのアイデアを放置するかを決定するために用いる「価値基準」が、資源配分プロセスの帰結を大きく左右する

価値基準に影響を与える要因

  1. コスト構造
    • 組織の利益率の維持改善に貢献しないイノベーションの計画を優先させることは、非常に難しい
  2. 規模の闘値(しきいち)
    • 企業が大規模であるほど、事業機会の規模の闘値は高くなる

創発的戦略における経営者の役割

  • 成功者たちがうまくやり遂げられるのは、当初の戦略に欠陥があることが判明した場合に備えて、再試行するための資金を残しておくからである
  • 新事業の初期段階に上層部が果たすべき役割の一つは、何が有効で何がそうでないかを創発的な事象から学び、学習したことを意図的なチャネルを通じてプロセスへと循環させることである
  • 創発的戦略を積極的に受け入れる経営者は、すべてがまだ完全に理解されないうちに行動に移ることができる
  • 成功戦略が明らかなになっとき、経営者は資源配分プロセスでフィルタとして用いられる判断基準を掌握し、意図的戦略策定プロセスへとシフトしなければならない

破壊の成否

  • 創発的戦略から意図的戦略への切換がうまくいくかどうかが、破壊的事業の成否を分ける
  • 新しい破壊的成長の波を捉えようとする企業の取り組みは、創発的戦略によって導かれなければならない
  • 主流事業を推進するにあたっては、競争力と収益性を維持するための持続的イノベーションを導く、意図的戦略を用いる必要がある

破壊的成長事業の障害となる意図的戦略

  1. 優良企業の資源配分プロセスは、既存事業を支える計画以外のものをふるい落とし、破壊的イノベーションが見落とされてしまう
  2. 意図的戦略プロセスが組織に組み込まれてしまうと、創発的プロセスを再び用いることが難しくなる

戦略策定プロセスの重要ポイント

  1. 当初のコスト構図によって、優先順位付けや資源配分の決定を導く、価値基準や判断基準が決まってしまうため、新成長事業のコスト構造は注意深く管理しなければならない
  2. 事業計画では「発見志向計画法」などの手段を通じて重要な仮説について必ず検証し、有効な戦略を生み出すプロセスを積極的に加速させる
  3. 一つひとつの事業に繰り返し直接関与し、それぞれの状況に応じて創発的戦略と意図的戦略のどちらに従うべきかを判断する
  4. 資源依存に対抗して変革をマネジメントする手段は、破壊的製品を高く評価する別の資源提供者に依存できるような、独立組織を構築することである
  5. 新事業が単純な製品によって無消費に対抗する唯一の方法は「無消費のような顧客や製品を経済的に魅力あるものと捉えるコスト構造」を構築することである

意図的計画法と発見志向計画法の違い

表8-1. 創発的戦略プロセスをマネジメン卜するための発見志向計画法
持続的イノベーション:意図的計画法 破壊的イノベーション:発見志向計画法
特徴 パターン認識に基づいてプロジェク卜開始を決定する 数字や規則に基づいてプロジェク卜開始の決定を下しても構わない
段階 1 仮説(将来予測)を立てる 財務目標を打ち出す
2 仮説に基づいて戦略を策定し、戦略に基づいて財務予測を立てる 仮説を証明するためのチェックリストを作成する
3 財務予測を基に投資決定を行う 重要な仮説の妥当性を検証するために、学習計画を実行する
4 財務予測を実現するために戦略を実行する 戦略を実行するために投資を行う

発見志向計画法のポイント

  • 新事業が有効な戦略を見出す間に「発見志向計画法」を用いれば、試行錯誤を漫然と繰り返すよりも、有効な戦略をはるかに早く、かつ目的を持って生み出す手助けができる
  • 第2段階:仮説のチェックリストを作る。「財務予測が実現すると期待できるのは、どのような仮説が正しいと証明されたときか」を列挙し、最も重要なものから順番に列挙する
  • 第3段階:重要な仮説の妥当性を検証する学習計画を、迅速かつなるべく費用をかけずに実行し、戦略の手直しを行う
  • 発見志向計画法を用いると「組織が要求する数字を実現するための計画には、それを裏付けるような妥当な仮説がない」ということが早い段階で判明する

戦略策定の力点

  1. 組織のコスト構造
    • 価値基準をマネジメントし、理想顧客からの破壊的製品に対する注文が優先されるように図ること
  2. 発見志向計画法
    • 何が有効で何がそうでないかについての学習を加速させる、徹底したプロセスを用いること
  3. プロセスの監視
    • 意図的、創発的プロセスが各事業の状況に応じて用いられるよう、油断なく気を配ること

戦略のシフト

  • 有効な戦略を実行する段階では、積極的に意図的戦略モードに切り替えて、創発的戦略への資金提供を中止しなければならない
  • 新しい組織で成長事業に取り組む際、戦略プロセスを創発的戦略モードにリセットし忘れると、新事業の立ち上げに失敗する
  • 正しい戦略を求めるだけでなく、戦略が生み出されるプロセスをマネジメントすることが重要である
  • 新市場型破壊の創生期は、戦略を実行するのではなく、有効な戦略が生まれ出るようなプロセスを進めなければならない

関連コンテンツ