イノベーションへの解 第3章概要
状況ベースの細分化
製品にどのような特長や機能を付加し、どのようにポジショニングすれば、顧客に買わせることができるのか、その因果関係を明らかにするのは「状況ベース」の細分化である。
“ 顧客は特定の「用事」を片づけるために製品を「雇う」” という考えに基づいて市場を細分化すれば、顧客が現実に生活を送る様子を正確に映し出すような形で、市場を細分化することができ、その過程で、破壊的イノベーションの機会を発掘することもできる。
片づけなければならない用事
顧客(個人や企業)の生活にはさまざまな「用事」が頻繁に発生し、彼らはとにかくそれを片づけなければならない。
顧客は用事を片づけなければならないことに気付くと、その用事を片づけるために「雇える」製品やサービスがないかを探し回る。
顧客の思考プロセス
顧客の思考プロセスには、まず何かを片づけなくてはという認識が生じ、次に彼らはその用事をできるだけ効果的に、手軽に、そして安くこなせる物または人を雇おうとする。
顧客が片づけようとする用事や、その用事を通じて達成しようとする成果が、状況ベースの市場区分を構成する。
製品のターゲットを顧客そのものではなく、顧客が置かれている状況に絞れば、狙い通り成功する製品を市場に展開することができる。
顧客が抱える用事
製品がどのような用事をするために雇われているか
うまく片づけられずにいる用事にはどのようなものがあるか
新たな成長
成長とは「顧客が特定の用事を片づけるために、不満を感じながらも時折雇っている他の分野の製品」からシェアを奪うことで生まれる。
製品の新たな成長は「無消費」の中に潜んでいる。
無消費と対抗すれば、最大の成長を生み出す。
新市場型破壊への参入点(破壊のための足がかり)
ターゲット顧客が片づけようとしている用事を突き止める。
破壊的製品の標的を「片づけたいがこれまでうまくこなせなかった用事」に絞ることができれば、それを最初の足がかりとなり、その後の持続的な向上で成長し続けることができる。
「片づけるべき用事」というレンズがあれば、「顧客がやがて価値を認める製品と同じ路線の初代製品」をもって、市場に参入することができる。
新市場型破壊の足がかりとなる「人々が片づけようとしている用事に近い初代製品」を素早く市場に出す方法
観察や聴取を通じて顧客が片づけようとしている用事を見極める。
迅速な開発と素早いフィードバックを戦略的に行う。
持続的成長
破壊的事業の成長が始まるのは、イノベーションが向上して、既存企業の製品に取って代わるときである。
持続的向上は、収益性のさらに高い顧客のニーズを満たすために背伸びをすれば実現する。
ローエンド型破壊者にとってのマーケティング上の課題
低コストのビジネスモデルを上位市場にまで拡張し、収益性の高い顧客が片づけようとしている用事をこなす製品にも適用する。
新市場型破壊における挑戦
上位市場に向かう経路を作り出す。
上位市場への破壊的行進を続けるためには、「用事」を基にした細分化方式による適切な改良を選択する。
状況ベースの区分
「顧客が片づけようとしている用事」という観点から市場を従えることで、顧客の時間の過ごし方に即したイノベーション項目を定義することができる。
どの製品が顧客と結び付くかを明らかにする「状況ベースの区分」に基づく理論があれば、理解しやすく予測可能になる。
企業が特定の用事に改良を集中すれば、製品はいつまでも差別化される。
属性ベースの区分
メーカーが競合企業のすべての機能を、ひとつの多目的型機器に必死に詰め込もうとすると、コモディティ化された区別の付かない製品になる。
このような結果に至る理由は「片づけなければならない用事」ではなく「製品の属性や顧客の属性」という観点から市場を促えるからだ。
優良企業の社内で作用する抵抗力
(1) 的を絞ることへの恐れ
状況ベースの区分によって製品開発を行えば、競合他社の機能を模倣しなくなる。
顧客が片づけようとしている用事に的を絞れば、新製品開発の成功確率を高められる。
(2) 上層部による機会の定量化の要求
用事や状況をベースとした市場区分の規模や性質を定量化するには、一般的な市場定量化手法とは異なる調査・分析手法を用いなければならない。
(3) チャネルの構造
製品を売ってもらうためには、新しい部類の小売業者や流通業者や付加価値再販業者を探し、彼ら自身が上位市場へ移行して既存のチャネルを破壊する原動力となるような製品を提供しなければならない。
(4) 広告とブランド戦略
ブランドを通じて、顧客に対してではなく、状況に対してコミュニケートすべきである。
もしブランドが「片づけなければならない用事」として認識されれば、顧客は暮らしの中でその用事が発生したときは、そのブランドを思い出して製品を雇うだろう。
ローエンド型破壊が既存ブランドを損なうという懸念に対しては、破壊的製品が雇われるべき用事を想起させる「目的ブランド」を構築するとよいだろう。
顧客が製品と用事を結び付けることに手助けとなるブランド戦略があれば、破壊は容易になる。
用事のポイント
「顧客がすでに片づけようとしていた用事」を、より効果的に手軽にやり遂げるのに役立つ新製品であれば成功するだろう。
「破壊の足がかりを特定する」ということは「将来の顧客になり得る人々が生活の中で片づけようとしている、特定の用事と結び付く」ということである。
片づけるべき用事を見極めることが重要なのは、足がかりを見つけるためだけではない。
持続的向上を進める間も特定の用事に結び付いたままでいること、そして顧客を雇うべき製品に誘導する目的ブランドを構築することが、破壊的製品を成長軌跡上に留める唯一の方法である。